今昔、入道真覚は権中納言藤原の敦忠の卿の第四子也。
而るに康保四年と云ふ年の□□の比、俄に道心発にければ、年□□にして出家して、山に登て□□と云ふ人を師として、真言の密法を受け学ぶ。
両界及び阿弥陀の法を持て、毎日三時に此の法を行ひて、一生の間断たざりけり。
而る間、年月積て、遂に入道命終らむと為る時に臨て、身に聊の病有りと云へども、苦しぶ所少し。
而る間、入道、同法の僧共に告て云く、「此に白き鳥の尾長き来て、囀て云く、『去来、々々』と。即ち、西に向て飛び去ぬ」と。
入道、亦云く、「我れ、目を閉れば、眼の前に髴に極楽の功徳荘厳の相を現ず」。
此如く云て、遂に入滅する日、入道、誓を発して云く、「我れ、十二年の間、修する所の善根、今日、極楽に皆廻向す」と云て、即ち入滅しにけり。
其の夜、三人の人、夢に、数の止事無き僧共、竜頭の船に乗て来て、真覚入道を此の船に乗せて、迎へて去ぬと見て、告けり。
此れを思ふに、「三人の夢に違ふ事無く、只同じ様に見たりけるに、必ず往生する人也」と、知ぬ。
此れを聞く人、皆涙を流して、悲び貴びけりとなむ語り伝へたるとや。