往反の人の物を奪ひ取り、国を廻て人の家に入て、財を盗み人を殺す。
然れば、国の人、皆此れを歎て、一国挙て心を合せ力を加へて、此の盗人共を皆捕つ。
或は不日に頸切り手足を折り、或は生け乍ら獄に禁ず。
此れ、此の中に勝たる者也ければ、罪多くして、縄を以て四の支を機物に張り付て、弓を以て射しむるに、可□□くも非ぬに□れぬ。
此の如く、三度□□ぬれば、人々、此れを見て、恐れ怖て、盗人に問て云く、「汝ぢ、何なる故に此く有るぞ。身に何なる勤か有る」と。
盗人の童、答て云く、「我れ、更に指る勤無し。只、幼少の時より、法花経の第八巻の普門品を読奉れり。月毎の十八日に精進にして観音を念じ奉るに、昨日の夜の夢に僧来て、告て宣はく、『汝ぢ、吉く慎て、観音を念じ奉れ。汝ぢ俄に災*に値はむとす。然るに、我れ、汝に代て弓箭を受くべし』と。夢覚て後、逃げ遁る方無して、此の難に値ふ。定て知ぬ、夢の告げの如くに、観音の我を助け給ふなめり」と云て、大きに音を叫て泣く事限無し。
其□□□□□見聞く人、皆涙を流して、観音の霊験を貴むで、此の盗人の□□を□□其の□□。
此の童、国の追捕使に仕へて、名を「たたす丸」と云けり。
盗人なれども、誠□□*れば、観音も此くぞ利益し給けるとなむ、語り伝へたるとや。