今昔、仏*、祇薗精舎に在ます時に、多の御弟子達集り給に、舎利弗、未だ来給はず。
其の時に、目連に告て宣はく、「汝、速に舎利弗の所に行て、呼て将来べし」と。
目連、仏の教に随て、舎利弗の所に行て、仏の御言を告るに、舎利弗、衣を補て居給へり。
舎利弗、目連に告て云く、「汝は神通第一の人也。我が此の地に置ける帯を取り動かすべし」と。
然れば、目連、神通を励して、此の帯を挙むと為るに、塵許も動かず。
須弥は振ひ、大地は動けども、終に此の帯動かずして止ぬ。
亦、舎利弗、目連に云く、「汝は速に前に参るべし。我は後に至らむ」と。
此れに依て、目連、仏の御許に返り参たるに、舎利弗、威儀を斁らずして、仏の御前に候ひ給ふ。
此れを以て、目連知ぬ、「我れ神通第一也と云ども、舎利弗は増れり」と。
「仏の御弟子達も、此の如きの挑事をし給ふ也けり。増して、末代の僧の智恵験を挑まむは尤裁り也かしとなむ、語り伝へたる」とや。