其の後、其の畠の主、青菜を引取らむが為に、下女共数具し、亦幼き女子共など具して、其の畠に行て青菜を引取る程に、年十四五許なる女子の、未だ男には触れざりける有て、其の青菜を引取る程に、垣の廻を行て遊けるに、彼の男の投入たる蕪を見付て、「此に穴を彫たる蕪の有ぞ。此れは何ぞ」など云て、暫く翫ける程に、皺干たりけるを掻削て食てけり。
父母、糸奇異く思て、「何なる業をしたりけるぞ」と責め問ければ、女子の云く、「我、更に男の当りに寄る事無し。只怪き事は、然の日、然か有し蕪を見付てなむ食ひたりし。其の日より心地も違ひ、此く成たるぞ」と云けれども、父母、心得ぬ事なれば、此れを何なる事とも思はで、尋ね聞けれども、家の内の従者共も、「男の辺に寄る事も更に見ず」と云ければ、奇異くて月来を経る程に、月既に満て、糸厳し気なる男子を平かに産つ。
其の後、云ふ甲斐無き事なれば、父母、此れを養て過る程に、彼の下りし男、国に年来有て上けるに、人、数具して返るとて、其の畠の所を過けるに、此の女子の父母、亦有し様に、十月許の事なれば、此の畠の青菜引取らむとて、従者共具して畠に有ける程に、此の男、其の垣辺を過ぐとて、人と物語しけるに、糸高やかに云ける様、「哀れ、一とせ国に下し時、此を過し。術無く開の欲くて堪へ難かりしかば、此の垣の内に入て、大きなりし蕪一つを取て、穴を彫て、其れを娶てこそ、本意を遂て垣の内に投入てしか」と云けるを、此の母、垣の内にして慥に聞て、娘の云ふ事を思ひ出て、怪く思へければ、垣の内より出て、「何に、何に」と問ふに、男、「『蕪盗たり』とて云を、咎めて云なり」とて、「戯言に侍り」とて、只逃に逃るを、母、「極て事共の有れば、必ず承らむと思ふ事の侍る也。我が君宣へ」と泣く許に云へば、男、「様有る事にや有るらむ」と思て、「隠し申すべき事にも侍らず。亦、自らが為にも重き犯しにも侍らず。只、凡夫の身に侍れば、然々の□侍しぞ。我と物語の次に申つる也」と云に、母、此れを聞て涙を流して、泣々く男を引へて家に将行けば、男、心は得ねども、強に云へば家に行ぬ。