「なにはのことのよしあしをもおぼしめしわき候はんまでは*、うきをもしのびすぐして、御身*、をさらぬまもり*に。」とこそおもひまゐらせ候つるに、
おのが世々にもなりぬべく候事の「さやは契し。」とおきふしなげかれ候に、御ふみ見候へば、
いさめしものと見えさぶらふこそあはれにおぼえ候へ。
「げに、さぞおぼし召候らん。」と御こゝろぐるしうて。
ちかきほどのおもひやりだになく、都鳥にこととふたよりも候はぬ身の、かへるなみをのみうらやみて、くもでに思ふことたえぬ八はしのなもうらめしく、わたりもやられ候まじき心のうちに、まだおぼしめしなげき候はんずることなどをおもひつづけ候へば、いとゞものうくて。
大かた、いかにもみそぢにあまりてこそうるはしく物はおもひしられ候なれ。
はたとせがうちは、なほおもひさだまらぬ事にて候なるを、「ましていかに。」*と御心ぐるしく候へども、いくとせつもりたらん人よりもおとなしく見まゐらせ候ほどに、
「御覽じとゞむるふし〴〵もや。」とこまかに申候なり。
*紀内侍。新陽明門院女房。
*必要な養育係