なにと申ても、人のしたち*「したて」か。



によることにて候。



又あぢきなき夢のよに、たのしみさかえても、いつまでか候はん。



つひには佛のたねとこそおもひいるべき事にて候へども、おろかなる心のをこがましさは、うへをきはめたるくらゐにもそなはり、日の本のおやともあふがれさせたまひ候はんこそ、かりの此世にもなぐさむかたにて候べきを、そのおもひ出なくば、後のよには、くらきみちにまよはんこと、かなしく候ぞかし。



ほうのひきひき*未詳。



は、かぎりあることにて、何とあてがひ、おもふにもよらぬならひにて候へども、まだしきに、身をもてけちなどもしかるべからぬ事にて候。



かやうのことをよく〳〵おぼし召わきて、「ほどにもすぎて、やんごとなかるべき。」と、まづたてたるすぢひとつわたらせたまひ候へ。



かいりゆうわうの后とかや、あざむきけん人の心地して、そのまねめかしく候へども、かひなき心ざしひとつには、「上がうへにも、いつきすゑて、見まゐらせばや。」とおもふすぢふかく候に、「その心をたがへじ。」とおぼしめし候へ。



我身の人數にて、世にたちめぐるかひも候はゞ、心の限りかしづきたてゝ、御くわほうのほどをも見まゐらせ候なまし。



「宮づかへなど心ぐるしく、あはつけき名ももれぬべきわざ。」と見候しほどに、いはきなき*御ほどよりさまでいとなみ、「いつしか。」といだしたてまゐらせ候べきにては候はざりしかども、身のいふかひなきやうに候へば、「山がつになしはてまゐらせ候はんよりは、おのづから世にまじらひ、人めかせおはしまさば。」とおもひたてたるとほり、ひとつにあながちに心つよくおぼしめし候へ。


* 「いはけなき」
二葉よりいそぎたてまゐらせ候御みやづかへも、うはの空に、おもふ所なきにては候はず。



その御身いまだむまれさせ給はず候しほどに、あやしうたのもしき夢を見て候ひしにも、かならず女にて、かたじけなきくらゐに世をてらすさまに、さやかにみえさせ給候し。



「それにつけては、すこしそねみきしろふ*かたもやあらん。」などまでくはしく候し。


* 争う
「いかさまにも、やんごとなきくらゐに。」とうたがひあるまじきよし、あはせ*候しのちも、猶々心ふかき夢のつげどもたびかさなりて候。


* 占う
春日の神もさだめて、いつはり申とはおぼしめし候はじ。



御心にもおぼし召あはせ候はんずらんたのもしさは、いまだわすれ候はず。



此夢あはんまで人にかたらず、ふかくおさめて、朝におきて夕にふしても神佛にいのり申ことおこたり候はず。



いまぞかばかりもらしそめ候ぬる。



我心にもかけて、



「おしなべたるきはには身をもてなさじ。さるべきすくせありて*夢のつげもありけめ。さるにつけては、おほせなくとも、たのもしかるべきを。」とおぼしめして、


* 「こそ」
物うくなど候とも、心ながくしばしは世を御らん候へ。



それもおもふにたがふ事にて候はゞ、「いくよ*しもあるまじき世中に、このたびしやうじをはなれ、ぼだいにおもむかばや。」とうるはしくおぼしめしとるかた候て、


* 世
御心もしづまり候はゞ、御かたちもかへ、まことのみちにいらせたまひ候へ。



「『いかで人なみにも。』とおもひおきてしまゝにも、たがひはてぬ。なきおやのくらき道にまよはん光にも、いかであきらけきみのりのそこをならひとらん。」と思召候へ。