おもひのほかにもしは身にあまる御くわほうひらくるほどに候はんは、申におよび候はず、御もちひもなにごともおろかなるふしおほくとも、人にもてなされてとがはかくるゝ物にて候へども、それにつけてこそよのすゑまでいみじかりしためしにといひつたへられたきことにて候へ。
かしこきひじりの御代より女御・后の御うへまで、よつぎに見えて候へば、よく御覽ぜられ候へ。
三でうの后の御もてなしぞ、かたはらいたき事ながら、すゑの代まであらまほしくいみじき御ふるまひにて候。
御心もちひ、世のおきて、ふるきをあらため、むらかみの御代より此かた、御らんじ覺て、しよくしや*、びゞしきたぐひにはあらぬものから、ふしごとにゆゑをそへ、おもふ所あるがよきことにて候。
いまやうの人は、わらはれ、もどかるゝかたも候はんずれば、心得てよきほどに、このあはひは、御はからひあるべきにて候。
うちまかせ、さいはひなどひきいづる人はすくなき事にて候。
さすがにおしなべてのつらに、ちと御めかけられまゐらせなどするほどの事は、又もるるもありがたき事にて候へども、その中にもすこし「御心とめられたる。」とだにおもひをとり候へば、したりがほににくいげして、人にそしりもどかるゝ事のみ候。
げにもまたすこし色かはり、あぢきなきおもひもそひぬれば、かけまくもかたじけなき御ことなどを、ひきならしがほに*うらみまゐらせなどして、かぎりあるおほやけごとにも、
「さはり。」と申、世のおぼえありがほに、「あまたの御つかひをも、かさねてこそ。」などおもむけたる人、返々あるまじう、びんなかるべきことにて候。
それていにおもむけたる人は、露のたがひめにも、いちはやうおもひしほれて、さとがちに、あはつけき*色をもたち、あしきことにて候。
「あら、あじきな。御心なぐさめさせたまへ。」などそそのかす人あればとて、かくおもひしづまんもよしなし。
げに「時々はつみかろむわざもしてしがな。」といひて物まうでをし、おのづからかろびたるありきなどして、人におとしめらるるふしもまじりぬべし。
さやうにて、さしもふかゝらざらん御心ざしなどは、わざとなくともとだえゆきて、なごりなきさまになりはつることもや。
はじめよりあながちにはえばえ敷御おぼえならずとも、心もちゐおだしくて、人とあらそひそねむけはひなう、ほこらかにもてなして、さるなみにて、
まじらひぬべからんほどは、よろづをしらずがほに、うらなく、らうたきさまして、さる物から、みのありさまは、
ふかくおもひ入たるやうにうちとけみだれ、心ゆるみたる氣色など御らんぜられず、ことのつまごとには物おもはしきをおもひいます、
うちまぎらはすほどとおぼえて、さるべきをり〳〵の御いらへ、さやかならぬものから、うちかすめて詞おほく、なが〳〵とことつゞけぬやうに、
「おもひしりけり。」とは、さすがに色見ゆるていに、なにのあはれをも、おもひしりたるいろみえてあはれなるべきふしもおもひとゞめず、
「そこはかとなき身のほどにて。」などほのかにほのめかせたまふとも、ことに出てかほの色かはり、
ものうらめしげなるいろあらはさず、人わらはれにほいなきことありとも、心のうちふかくしづめて、
「數なるまじき身のなをかへてもまじらふこそめやすからめ。」などおぼしめして、うへの女房たちなどにも身のありさまをかきくつし、
「ほいなう、おもはずなる」よし、露ばかりもおほせられ候べからず。
あやまりて、「ほいなきことかな。」など申候はん人候とも、なにかは人々しくその數におぼしめさるべきにもあらず。
しひて「こゝろのみこそ。」など詞ずくなにてわたらせたまひ候へ。
たゞかきまぜのひと〴〵ならで、おもふどちならん人などの、心ばせもなつかしばみて候はんには、
それもまた、うらなきやうに、うちかすめもして、折々につけて、はしたなきこともありながら、よろづをしらずがほにてながらふるも、心あさけれど、
「又ふたばよりたちはなれざりし御かげのなつかしさに。」などていの、
かど〴〵しう物うらみがほにはなくて、うちかたらふついでなどには、もらしもせさせたまひ候へ。
さとずみしげく、いでいりにつけても中々身のはぢあらはるゝやうに候へば、いとゞかごおつる*ことにて、たゞおいらかに心しづかなるふるまひにて、
人よりはもてつけ、おさまりたる所だに候へば、うち〳〵のおぼえはなやかならねども、しぜんに御らんじなれて、たちまへば、世のたとへに申たるやうに、
「こゝろながきはとり*」にて、宮たちなどいできさせ給ふほどの御事など候へば、御かしづきにまぎれても、命のきはゝ、すぐすことにて候。
身のほども、よのありさまも、おもふやうにならぬ事にて候とも、五とせ六とせのほどはしのびて、色かはらぬやうにさぶらはせたまひ候へ。