なほうき身のすくせとも思ひしりぬべくならせ給はんときは、一すぢにおもひさだめて、さるべきついでして、さまうちかへて、しづかにおぼしめし候へ。
よからぬ人は、やがてかきまぜのきはにみをもてなして、あは〳〵しくはふるゝことなどの候。
夢のよなどと申なして、心もちゐ*あさ〳〵しき人のなにごともしるべき事と申て、
「よからぬすぢには、かろらかに、物にこゝろえたるさまして、みをやすらかにもてなし、しなおくれたるまどのうちにも、にぎはしくてだにかしづきすゑられ候へば、こゝろにうれふる事なくてありなんかし。」など申なす事候べく候。
さやうにものをおもひはじめ候ぬれば、おちぶれ、身をもてはふらかし候ぞ。
たゞおやのおもかげのこらん家のうちに、まことにだいかたぶき、すたれたえても、むぐらにかどをとぢられ、のきのよもぎにうづもれて、
たれふみわくるあともなき庭のあさぢをながめても、むかしにかはらぬ月ばかりこそこととひくるかたにて、たれはぐくみあはれをかはす人候はずとも、
「佛の御をしへのまゝにて、あきらかなるみちの光をも見、おやのありどころをもしらばや。」とおぼしめし候へ。
物がたりにつけたるしるべ*、もしはさぶらふふるごたちのなかにも、
かれはいづくにおはしましてこそ、かしこきことはあなれ。
これはとしてこそ身をもていでて、なか〳〵にめやすきていなれ。」など申きかせ、いざなひ候べく人候とも、なびかせ給ひ候な。
木草もちぎりおきたるいろ〳〵候へば、御えんもありこそし候らめども、うきは身にそふならひの候へば、こゝをさり、かしこへゆきても、人こそかはり所こそあらたまりぬるとも、
「さるべし。」とさだめおきなん身のすくせ、一たんのことによるべしとはおぼえ候はねば、たゞ御身をもてわづらはで、
あらぬ所をゆかしうする心は、ひとのおちくだるいんえんにて候。
むかしのかげとゞまれるまきのはしらは、なつかしく、こゝながらこそかたちもかへ、きやうほとけの御かざりをも、
みのたへんにしたがひてこそいとなまめ、をこがましく、
「うへなきくらゐにもいつきかしづきて見ばや。」とおもひたりしおやのおきてにもたがひはてゝ、
かくうつりけるみのはてを何事につけてもぢやくし*むさぼるおもひなくて、そむくとならば、
「露もこのよに御心とゞめじ。」とふかくいとひすてさせおはしまし候へ。
みをかへても、人たてまゐらせんと心にたしなみ候つる御心ざしの程おぼしめしやり候へ。
ながらへてあらましかば、かゝるありさまを見て、いかに心ぐるしく、こほりにむせぶしたおきの袖のしづくをもおもはまし。」など、
のどかにおぼしめしつゞけ候はゞ、さりとも御心すゝむるたよりにはなり候はんずらん。
おのづから見まゐらせ候はん人など、「かくまではおぼしめしすてけるよにか。」などやうに申人候はゞ、
「あまりにつみふかくむまれたる身のうかぶかたやあるとて。」とばかりおほせられて、
いみじくさとりひらけたるさまなどもてなさせたまひ候まじく候。
また、いかなるひじり、よにきこえたかくてかしこきありと申とも、むつびよりて、
「ほうもんきかむ。」などなれちかづく御事、返々あるまじく候。
中々思ひよるほどの事、かはる*と申候人候はんはひがことにて候。
さやうのことによりて、あしきこと・わろきなもたつことにて候。
あるまじきことは、いか程もうと〳〵しくおもひへだたりたるがよいことにて候。
ちからなくうけたもたせ給ふべきのりのことば、ごじやう*の法文もあきらめくたくおぼしめさば、うるはしきほとけのおんまへにて、御じゆかいなどひとあまたさむらはせて、
うけもたもたせ給ひ候はゞ、よにかしこきあまたちなどの此ごろはゆるされ*あまた候へば、それも心のほどなどよく御らんじさだめて、御がくもんなどの師にはせさせたまひ候へ。
かりそめにも、「此ひじりこそかのきえ*僧。」など、人にいはれさせ給ひ候まじく候。
佛事などせさせたまひ候はんにも、人ひとりを、わかずあまねき御心にそむえんに、こころぐるしく候はんあたりをしりて、まことにほとけの御心にかなひぬべきやうにせさせ給ひ候べく候。
おなじことも、まことをいたし、心ざしをいたさぬは、なのみありてまことにはいたらぬ事にて候なり。
また、きえん*まち〳〵なることにて候へば、人のをしへにもよるまじく候へども、
あれこれにかゝりたち候へば、心もちりて、一すぢにそまぬものにて候ぞ。
さればとて、「わがしう*ばかりほうはありて、よのけう*はいたづらごとぞ。」などていの事をろんじて、
おとしめなどすることは、かへす〴〵あるまじきことにて候。
世をもそしらず、我しうをもいかに人申そしるとも、それによりてあやふき*、たがふ御心候まじく候。