よにありわびたらん人のよるべなくただよひ候はんをば、あはれをかけて、はぐくませ給ひ候へ。



おもひのほかなることにて、中比よにふるたづきもすたれ、したしきにもそむけられ、うときにもましてこととふかたなう成たる事候しをはぐくみまゐらせし心ぐるしさは、おほふばかりの袖もひきたらず。



*それにつけても、かたくなしきかしづきは、更にいたはしく、あらき風をもよるのふすまをかさねて衣のうすきをふせぎ、


*紀内侍を育てた折の労苦を回想する。
いづみの水をすましても扇のかぜのぬるきを心ぐるしく、朝におきては花のひらきたる心地して、



木だかきかげを心もとなくまち、夕にふしては露のちりをもすゑじと、とこなつのはなのにほひにもすぎて、らうたくまぼり、



むば玉のかみのすぢことに千いろをいはひてもあかぬ心地して、はるのにしきも秋のたつたひめもわが子のためにたちかさねんことをおもひ、



まだひとへなる袖のうたゝね、こゝろぐるしくて、さむきよにもゆかをあたゝめて、かたはらにふせまゐらせ、



雪の光をかべにそむけるひかりとたのみて、あかずよな〳〵おぼえ候しにも、めにみえぬ神ほとけをかこち、



いにしへのむくひをうらみて、ふたとせばかりをすぐして候し程に、心をくだき身もなやみて、おいさきとほき御ためとのみよろづにいのりしに、



「さやは佛のおんちかひむなしく候べき。」とすくごう*のつたなき身をかへり見ず、


* 宿業
大ぐわんをおこして、ひとたびはうらみ、一たびはたのもしくぬかをつき、きやうをよみて、一すぢにせめふせ申侍しに、みつとまでは候はねども、



「佛の御しるしにや。」と覺ることのみ候へば、いかにもして、御しんつよくねんじまゐらせて、



「もしおもふやうなる世を待出させたまひ候はば、ひとのうれへをやすめ、まづしからんものをたすけん。」とおぼしめし候へ。