また、御心むけはさる事にて、はかなきわざにも、とりふれさせたまひ候はんずる物ごとに「よしあるさまに。」とおぼしめし候へ。
さすがに上のしなのえらびになりぬる人のすだれ、うたてあることは候まじけれども、おなじこともあるにまかせてこゝろをそへぬやうに候へば、ひさうなきものにて候。
そのみすのまへはくるしきやうに、そのわたりは心にくゝなど、心ときめきせらるゝやうに候へば、人にも所おかれ、はぢらるゝ事にて候ぞかし。
御たきものなどあはせられ候はんにも、かきまぜのつら*にはあらず、しみふかくめづらしきにほひをそへて、人の御ほどおしはからるゝやうにおぼしめし候へ。
こと〴〵*、けばやき*かをりなどもて出て、このましくするていには候はで、たゞいつもうちとけず、御ぞのにほひも、なつかしきやうにしめてわたらせたまひ候へ。
ひとのたきものこひまゐらせ候はんに、かうぐとゝのはず、おもひいれたるすぢなきやうに候はんなど、ちらさせたまひ候まじく候。
「その人のにほひは、べちのものにて。」といはるるやうに、「何ごともなべてのつらにはあらじ。」とおぼしめし候へ。
さればとて、「我こそは。」とにくいげして、ひとのことをもどくやうになどは候はで、うら〳〵となにのすぢあるさまには見えぬものから、こゝろの中には
「うつくしく、なにごともゆゑある色をそへてしがな。」とおぼしめし候へ。