をかし男有けり。



その男身をえうなき物におもひなして、「京にはあらじ。あづまの方に住べき」とて、行けり。



つれとする人ひとりふたり行けり。



道しれる人もなくて、とふてゆきけり。



三河の國岡崎と云所にいたりぬ。



そこを岡崎とは茶うりあるによりてなん岡崎とはいひける。


岡崎=「静岡と言えばお茶」と言うようなもの
その近くの家に立よりて旅籠めしくひけり。



その棚に柿つへたいとおほく有けり。



それを見て、つれ人「かきつへたといふ五もしを句のかみにすへて、旅の心をよめ」といひけれはよめる、


柿つへた=柿の蒂
かちみちを
きのふもけふも
すあしたれは
はしりきれぬる
たひをしそおもふ
かちみちを
きのふもけふも
すあしたれは
はしりきれぬる
たひをしそおもふ

かちみち=徒歩道
すあし=素足
とよめりけれは、皆人わらひにけり。