一、樹事



人の居所の四方に木をうゑて、四神具足の地となすべき事



経云、家より東に流水あるを青竜とす。



流水なもしそのけれバ、柳九本をうゑて青竜の代とす。



西に大道あるを白虎とす。



若其大道なけれバ、楸七本をうゑて白虎の代とす。



南側に池あるを朱雀とす。



若その池なけれバ、桂七本うゑて朱雀の代とす。



北後にをかあるを玄武とす。



もしその岳なけれバ、檜三本うゑて玄武の代とす。



かくのごときして、四神相応の地となしてゐぬれバ、官位福禄そなはりて、無病長寿なりといへり。



凡樹ハ人中天上の荘厳也。



かるがゆヘニ、孤独長者が祗洹精舎をつくりて、仏ニたてまつらむとせし時も、樹のあたひにわずらひき。



しかるを祗蛇大子の思やう、いかなる孤独長者か、黄金をつくして、かの地しきみてて、そのあたひとして、精舎をつくりて、尺尊ニたてまつるぞや。



我あながちに樹の直をとるべきにあらず。



ただこれを仏にたてまつりてむとて、樹を尺尊にたてまつりをはりぬ。



かるがゆへに、この所を祗園給孤独薗となづけたり。



祗蛇がうゑにき孤独がその、といへるこころなるべし。



秦始皇が書を焼き、儒をうづみしときも、種樹の書おばのぞくべしと、勅下したりとか。



仏ののりをとき、神のあまくだりたまひける時も、樹をたよりにとしたまへり。



人屋尤このいとなみあるべきとか。



樹は青竜白虎朱雀玄武のほかハ、いづれの木をいずれの方にうへむとも、こころにまかすべし。



但古人云、東ニハ花の木をうへ、西ニはもみぢの木をうふべし。



若いけあらば、嶋ニハ、松柳、釣殿のほとりニハかへでやうの、夏こだちすずしげならん木をうふべし。



槐ハかどのほうにうふべし。



大臣の門に槐をうゑて槐門となづくること、大臣ハ人を懐て、



帝王につかうまつらしむべきつかさとか。



門前に柳をうふること、由緒侍か。



但門柳ハしかるべき人、若ハ時の権門にうふべきとか。



これを制止することハなけれども、非人の家に門柳うふる事ハ、みぐるしき事とぞ承侍し。



つねにむかふ方ニちかく、さかきをうふることは、はばかりあるべきよし承こと侍りき。



門の中心ニあたるところに木をうふる事、はばかるべし。



閑の字になるべきゆへなり。



方円なる地の中心に樹あれバ、そのいゑのあるじ常にくるしむことあるべし。



方円の中木ハ、因の字なるゆえなり。



又方円地の中心ニ屋をたててゐれば、その家主禁ぜらるべし。



方円中ニ人字あるハ、因獄の字なるゆへなり。



如此事にいたるまでも、用意あるべきなり。