また、これを例の、童もて来たり。

兄、道にさしあひて、

「いま、これより」と言ひて遣りてけり。

「かくなむ」と言へば、

「例の、心肝なき童かな。

さきに気色悪しう言ひけむ人にや取らすべき。

この稲荷にて、眼居ものしげに思へりし者ぞや。

男よりのものぞや。

そもそも御返り」

と言ひてやりつ。

御返り憎しと思ふもののやうに、兄、いであひて、

「御文奉り給ふ人は、よべ男に盗まれ給ひにしかば、もとめに行くぞ。

もし、この御文給へる人ともしらず、うち率てゆけ」と言ひければ、しりへこたへにこたへて走りにけり。

「さもあらむ」と言ひて、文もやらずなりにけり。