かく夢のごとある人は、はらみにけり。
かく夢のごとある人は、はらみにけり。


書読む心地もなし。
ふみ読む心地もなし。


「例のさはりせず」
「例のさはりせず」


など、うたてあるけしきを見て、人々、言ふ。
など、うたてあるけしきを見て、人々、言ふ。


この兄も「いとほし」と見て、
このせうとも「いとほし」と見て、


春のことにやありけむ、ものも食はで、花柑子・橘をなむ、願ひける。
春のことにやありけむ、ものも食はで、花柑子はなかうじたちばなをなむ、願ひける。


知らぬほどは、親求めて食はす。
知らぬほどは、親求めて食はす。


兄、大学の
兄、大学の


饗応するに「みな取らまし」と思ひけれど、二つ三つばかり、たたう紙に入れてとらす。
饗応あるじするに「みな取らまし」と思ひけれど、二つ三つばかり、たたう紙に入れてとらす。


「あだに散る
花橘の
にほひには
緑の衣の
香こそまさらめ
「あだにちる
はなたちばなの
にほひには
みどりのきぬの
かこそまさらめ


これをきこしめすなればなむ」
これをきこしめすなればなむ」


返事に
返事に


「御ふところにありければなむ
「御ふところにありければなむ


似たりとや
花橘を
かぎつれば
緑の香さへ
うつらざりけり」
にたりとや
はなたちばなを
かぎつれば
みどりのかさへ
うつらざりけり」