妹のこもりたる所に行きて、見れば、壁の穴いささかありけるをくじりて、
妹のこもりたる所に行きて、見れば、壁の穴いささかありけるをくじりて、


「ここもとに寄り給へ」
「ここもとに寄り給へ」


と呼び寄せて、物語りして泣き居りて、出でなまほしく思へども、まだいと若うて、ねたりたべき人もなく、わびければ、ともかくもえせで、いといみじく思ひて、語らひ居るほどに、夜明けぬべし。
と呼び寄せて、物語りして泣き居りて、出でなまほしく思へども、まだいとわかうて、ねたりたべき人もなく、わびければ、ともかくもえせで、いといみじく思ひて、語らひ居るほどに、夜明けぬべし。






数ならば
かからましやは
世の中に
いと悲しきは
賤のをだまき
かずならば
かからましやは
よのなかに
いとかなしきは
しづのをだまき


返し
返し


いささめに
つけし思ひの
煙こそ
身をうき雲と
なりて果てけれ
いささめに
つけしおもひの
けぶりこそ
みをうきくもと
なりてはてけれ


と言ひて、泣きあへりけり。
と言ひて、泣きあへりけり。