人は皆、捨てて行きにければ、兄、従者三四人、学生一人して、この女を、死にける屋を、いとよくはらひて、花・香たきて、遠き所に、火をともしてゐたれば、この魂なむ夜な夜な来て語らひける。
人は皆、捨てて行きにければ、せうと従者ずんさ三四人、学生がくしやう一人して、この女を、死にけるを、いとよくはらひて、花・かうたきて、遠き所に、火をともしてゐたれば、この魂なむ夜な夜な来て語らひける。


三七日、いとあざやかなり。
三七日、いとあざやかなり。


四七日、時々見えけり。
四七日、時々見えけり。


この男、涙つきせず泣く。
この男、涙つきせず泣く。


その涙を硯の水にて、法華経を書きて、比叡の三昧堂にて七日のわざしけり。
その涙をすずりの水にて、法華経を書きて、比叡の三昧堂さんまいだうにて七日のわざしけり。


その人、七日は、なしはてても、ほのめくこと絶えざりけり。
その人、七日は、なしはてても、ほのめくこと絶えざりけり。


三年過ぎては、夢にもたしかには見えざりけり。
三年過ぎては、夢にもたしかには見えざりけり。


なほ悲しかりければ、はじめのごとしてなむ、まかせたりける。
なほ悲しかりければ、はじめのごとしてなむ、まかせたりける。


妻にも寄らで、独りなむありける。
にも寄らで、独りなむありける。