さて、あしたに、久しう書読ませざりければ、父ぬし、
さて、あしたに、久しうふみ読ませざりければ、父ぬし、


「あやしう篁が見えぬかな」
「あやしうたかむらが見えぬかな」


と言ひて、呼びにやるに、おどろきて、例の書かき集めて教へけるままになむ、
と言ひて、呼びにやるに、おどろきて、例の書かき集めて教へけるままになむ、


この女のみ心に入りて、ひがごとをのみなむ、しける。
この女のみ心に入りて、ひがごとをのみなむ、しける。


かう教ふる中に、角筆して、
かう教ふる中に、角筆して、


「かやうのものの書は、ひがごとつかまつるらむ、このごろは、もの覚えずや。
「かやうのものの書は、ひがごとつかまつるらむ、このごろは、もの覚えずや。


君をのみ
思ふ心は
わすられず
契りしことも
まどふ心か」
きみをのみ
おもふこころは
わすられず
ちぎりしことも
まどふこころか」


返し
返し


博士とは
いかが頼まむ
さとられず
ものわすれする
人の心を
はかせとは
いかがたのまむ
さとられず
ものわすれする
ひとのこころを


また、男、
また、男、


読み聞きて
よろづの書は
わするとも
君ひとりをば
思ひもたらむ
よみききて
よろづのふみは
わするとも
きみひとりをば
おもひもたらむ


かくて、この男は、弔文をぞ、常に作りかへける。
かくて、この男は、弔文てうぶんをぞ、常に作りかへける。