さて、この女、願ありて、二月の初午に、稲荷にまゐりけり。
さて、この女、ぐわんありて、二月きさらぎ初午はつうまに、稲荷いなりにまゐりけり。


供に人多くもあらで、おとな二人、わらは二人ぞありける。
供に人多くもあらで、おとな二人、わらは二人ぞありける。


おとなは、いろいろの袿、二人は、同じをなむ、着たりける。
おとなは、いろいろのうちき、二人は、同じをなむ、着たりける。


君は、綾の掻練の単襲、唐の羅の桜色の細長着て、花染の綾の細長折りてぞ、着たりける。
君は、あや掻練かいねり単襲ひとへがさねからうすものの桜色の細長ほそなが着て、花染の綾の細長折りてぞ、着たりける。


髪はうるはしくて、たけに一尺ばかりあまりて、頭つきいと清げなり。
髪はうるはしくて、たけに一尺ばかりあまりて、かしらつきいと清げなり。


顔もあやしう世人には似ず、めでたうなむありける。
顔もあやしう世人には似ず、めでたうなむありける。


男の童三四人、さては、この兄ぞ、ありける。
の童三四人、さては、このせうとぞ、ありける。


まほにはあらねど、先立ちおくれて来ける。
まほにはあらねど、先立ちおくれて来ける。


まうでざまに、困じにければ、兄いとほしがりて、
まうでざまに、こうじにければ、兄いとほしがりて、


「篁にかかり給へ」
「篁にかかり給へ」


とて寄りければ
とて寄りければ


「いで、いないな」
「いで、いないな」


と言ひて、道中に去にけり。
と言ひて、道中ににけり。