「いづくにか率て去ぬる」と見せければ、「その家」と見てけり。
「いづくにか率て去ぬる」と見せければ、「その家」と見てけり。
「神の教え給ひしかばなむ、さして奉る。
「神の教え給ひしかばなむ、さして奉る。
かの石神の御もとにて、今日あらば」
かの石神の御もとにて、今日あらば」
文を取り入れて見れば、この兄、出で走りて、「父ぬしも聞き給ふに、いともの騒がしく。
文を取り入れて見れば、この兄、出で走りて、「父ぬしも聞き給ふに、いともの騒がしく。
この童は、いづくから来たるぞ。
この童は、いづくから来たるぞ。
いづれの好き者の使ぞ」と言ひければ、
いづれの好き者の使ぞ」と言ひければ、
「御文は、奉らせつれど、昨日いませしぬしの『いづれの使ぞ』とのたまふを、うちからは、翁びたる声にて『何事ぞ』など、のたまひつれば、わづらはしさになむ、まうで来ぬる」
「御文は、奉らせつれど、昨日いませしぬしの『いづれの使ぞ』とのたまふを、うちからは、翁びたる声にて『何事ぞ』など、のたまひつれば、わづらはしさになむ、まうで来ぬる」
と言ひて、またのあしたに、
と言ひて、またのあしたに、
「昨日の御返し、たびたび、いとおぼつかなし。
「昨日の御返し、たびたび、いとおぼつかなし。
この童の、あとはかなくて、まうで来にしかば
この童の、あとはかなくて、まうで来にしかば
あとはかも
なくやなりにし
浜千鳥
おぼつかなみに
さはぐ心か」
あとはかも
なくやなりにし
はまちどり
おぼつかなみに
さはぐこころか」