この宿を出でて、笠原の野原うちとほるほどに、おいその森といふ杉むらあり。
下草ふかき朝露の、霜に變らんゆくすゑも、はかなく移る月日なれば、遠からずおぼゆ。
變らじな
わがもとゆひに
おく霜も
名にしおいその
森のした草
かはらじな
わがもとゆひに
おくしもも
なにしおいその
もりのしたくさ
音にききし醒が井を見れば、陰くらき木の下の岩根より流れ出づる清水、あまりすずしきまで澄みわたりて、まことに身にしむばかりなり。
餘熱いまだ盡きざるほどなれば、往還の旅人多くたちよりて凉みあへり。
班せふよが團雪の扇、秋風にかくて暫らく忘れぬれば、末遠き道なれども、たち去らんことは物うくて、さらに急がれず。
道のべに
清水ながるる
柳かげ
しばしとてこそ
たちとまりつれ
みちのべに
しみづながるる
やなぎかげ
しばしとてこそ
たちとまりつれ
Возле дороги
Бежит чистый ручей, —
Под сенью ивы
Я устроил привал,
Хоть хотел лишь на миг задержаться.
とよめるも、かやうの所にや。
В подобном месте и я сложил:
道のべの
木陰の清水
むすぶとて
しばし凉まぬ
旅人ぞなき
みちのべの
こかげのしみづ
むすぶとて
しばしすずまぬ
たびひとぞなき
Нет путников тех,
Кто насладился б прохладой
Хоть немного,
Чистой воды зачерпнув
У дороги под сенью деревьев.