五月ついたちに、御はらからのきみたち、わりごぐしておはしたりけるに、あめふりたりければ、いしをぎみ、



かゝりてふ
よ河ともへと
さみだれて
いとゞ涙に
水まさりぬる
かかりてふ
よかはともへと
さみだれて
いとどなみだに
みづまさりぬる


少納言兼家



君がすむ
横河の水や
まさる覽
涙の雨の
やむよなければ
きみがすむ
よこかはのみや
まさるらん
なみだのあめの
やむよなければ


右衞もんのすけ、



草深き
山ぢを分て
とふ人を
哀と思へど
あとふりにけり
くさふかき
やまぢをわきて
とふひとを
あはれとおもへど
あとふりにけり


宮權亮、



何くへも
雨のうちより
離れなば
横河にすめば
袖ぞ濡ます
なにくへも
あめのうちより
はなれなば
よこかはにすめば
そでぞぬれます


となむ。とみのこうぢ*のきみたち、わりごしつつまで給へり。


*富小路
六らうぎみ遠度のきこえたまふ。



よのなかこゝろうければ、「おのれこそかしらそらん。山へいらむ。」とおもうたまへしかど、



「おとゞのきみのかくしたまはでうせたまひにしかば、つみふかくなる。」とおもへ*たまへて、おもはぬやま〳〵にありくこと、


* おもう
いまに思ひ侍れど、「きみのおはすれば、御でしにもやなりなまし。」と思たまふる。



とのたまへば、ぜじのきみ*、「でしまさりにこそあなれ。」ときこえ給ば、六らうぎみ、


*藤原高光か。後出。
「でしまさりとおぼさば、これよりふかからむやまにこそいり侍らめ。いづくならむ。」とて、六らうぎみ、



都へも
さらに歸らじ
わがごとく
つみ深き山
いづこ成覽
みやこへも
さらにかへらじ
わがごとく
つみふかきやま
いづこなるらん


ぜじのきみの御かへし、



是よりも
深き山べに
君いらば
あさましからむ
山河の水
これよりも
ふかきやまべに
きみいらば
あさましからむ
やまかはのみづ


四郎ぎみ遠量



君をなほ
浦山しとぞ
思らむ
思はぬ山に
こゝろいるめり
きみをなほ
うらやましとぞ
おもふらむ
おもはぬやまに
こころいるめり

山し=* ママ
七郎ぎみ遠基、ぜじのきみにきこえ給。



君がすむ
山ぢに露や
茂るらん
分つる人の
袖のぬれぬる
きみがすむ
やまぢにつゆや
しげるらん
わけつるひとの
そでのぬれぬる


御返し、



苔の衣
身さへぞ我は
そぼちぬる
君は袖こそ
露にぬるなれ
こけのきぬ
みさへぞわれは
そぼちぬる
きみはそでこそ
つゆにぬるなれ


をとゝぜじのきみ*、


*前出「尋禅」か
昔より
山水にこそ
袖ひづれ
君がぬるらん
露はものかは
むかしより
やまみづにこそ
そでひづれ
きみがぬるらん
つゆはものかは