かくて、この入道のきみ高光、御ゆめに、



おとゞのきみ出家し給へりし御すがたにて、このよかはにおはしまして、なきてきこえ給ける。



「なにをうしとて、かくはなり給しにか。たふとさはいとたうとけれど、いとかなしくなむ。」*あはれにとひきこえ給へば、


* と
「それにたすかることもあり。さはあれど、いとくちをしくなむある。」などの玉へば、なく〳〵きこえ給。



「いとあはれなるすまひし給けるを、あまがけりてもたづねとぶらはむ。



かゝりとならば、よにたち給な。」とて、



君がすむ
横河の水
し濁らず
は我なき魂は
常にみせてん
きみがすむ
よこかはのみづ
しにごらず
はわれなき魂は
つねにみせてん


御かへりごと、



いとゞしく
袖ぞひぢぬる
横河には
君が影みば
水も濁らじ
いとどしく
そでぞひぢぬる
よこかはには
きみがかげみば
みづもにごらじ


ときこえ給ほどに、やがてさめ給ひぬ。こひちかひ給て、御をとのきみにかたらひきこえたまひて、かくなき給。