兵衞のすけのきみ爲光にぞたうの少將ぎみの御かはりに少將になり給て、よろこびにこの中納言どの師氏にまゐりたまへるを見給ても、*又せきやりがたき御けしきなり。
「なかのきみ少將は、やまのきみのかはりか。」とて、
たがはずや
同じみ笠の
山の井の
水にも袖を
濡しつる哉
たがはずや
おなじみかさの
やまのゐの
みづにもそでを
ぬらしつるかな
たがふ事
少きみには
哀なる
み笠の君が
かはりと思へば
たがふこと
すくなきみには
あはれなる
みかさのきみが
かはりとおもへば
このいかを少將も思ひいで給てなみだのこさでぞおはしましける。
「つかさも、ことにうれしからず。」とぞのたまひける。
「『あにぎみのなりいでたまはむしりにたちてありかむ。』とこそ思ひしか。よろこびにありかんことのかなしきこと。」との給ひけれど、いかゞはせんとぞありきたまひける。
かくて、近衞づかさの人きて、うたひのゝしれど、なにのうれしげもなくて、しほたれたまひける。
なにたてる
み笠の山に
入きても
涙の雨に
なほぬるゝ哉
なにたてる
みかさのやまに
いりきても
なみだのあめに
なほぬるるかな
みかさ山
雨はもらじを
古の
君がかざしの
露にぬるゝぞ
みかさやま
あめはもらじを
いにしへの
きみがかざしの
つゆにぬるるぞ
もゝぞのの中納言のきみ師氏、しろがねのはながめをよつばかりつくりて、そのころのはなさして、やまにたてまつり給とて、
山のはゝ
かくしもあらじ
君が爲
都の花は
をれば袖ひづ
やまのはは
かくしもあらじ
きみがため
みやこのはなは
をればそでひづ
我ために
君がをりける
花みれば
すむ山端の
露に袖ぬる
われために
きみがをりける
はなみれば
すむやまのはの
つゆにそでぬる
さて、このはななど、きみたちみなきこえ給て、みなのぼりて見たまふ。
念佛堂には、このかめにはなたてゝなむおこなひたまひける。
殿上のきみ、「しか〴〵。」とにうだうのきみにかたりたまふ。
空にすむ
物と云共
君ともに
かめさへのぼる
み山也けり
そらにすむ
ものといふとも
きみともに
かめさへのぼる
みやまなりけり
横河て
ふなには立れど
今よりは
龜山と社
云べかりけれ
よこかはて
ふなにはたれど
いまよりは
かめやまとこそ
いふべかりけれ
哀なる
君が齡を
ゆづりてぞ
横河に龜も
たちのぼりける
あはれなる
きみがよはひを
ゆづりてぞ
よこかはにかめも
たちのぼりける
久しくも
なにか我身を
思ふべき
龜の命は
君にまかせん
ひさしくも
なにかわがみを
おもふべき
かめのいのちは
きみにまかせん