このぜじのきみ*の御はらからのきみたち、山はなつともさむかなるを、わたもの*ししたまふ。
中宮よりくるみのいろの御ひたゝれ・くちなしぞめのうちぎひとかさね・ふるきのかはのおほんぞ・あをにびのさしぬき・あはせのはかま、たてまつれたまふ。
大納言どののきたのかた*のたてまつれ給、いともきよげなるつむぎをあを色にそめて、山ぶきいろのうちぎひとかさね・あをにびのあやのさしぬき・あはせのはかまひとかさね、たてまつれたまふ。
式部卿重明のきたの方登子ひとりおはすれば、ことなることおはせねど、人のもののたまふに、思しりてもあらねど、ふすまたてまつり給、
かくて、*この中宮におはしますをみな人御ぞたてまつれ給。
「かならずわれもたてまつらむ。」とのたまひければ、
あをにびのうちぎひとかさね・おなじいろのはかまひとかさねなんたてまつれたまひける。
あい宮、「われなにわざをせん。」とて、きぬの御かたびらひとかさね・ぬののけうらなると、「御ゆどのしるからんに*。」とて、
これ*よりこそやますげのやうなりとも、御ぞはたてまつれまほしけれ。
「ゆかたびら、たゞのと、いかにせさせ給へらむ。」と。
袂より
ぬれ劒袖も
まだひぬに
みにもしみぬる
から衣哉
たもとより
ぬれけんそでも
まだひぬに
みにもしみぬる
からころもかな
わがきたの方には、「あふことのかたみにとこそみたてまつれ。」となむきこえたまへりける。
「いみじうあはれ。」となん、ことよりもあいみやのたてまつれたまへるを、とりわきてなき給ひける。
すべて〳〵、いひつくすべくもなく、いみじう憐になん。
* 「たてまつれ」名か。