このぜじのきみ*の御はらからのきみたち、山はなつともさむかなるを、わたもの*ししたまふ。


* 藤原高光か。
* 「たてまつれ」名か。
中宮よりくるみのいろの御ひたゝれ・くちなしぞめのうちぎひとかさね・ふるきのかはのおほんぞ・あをにびのさしぬき・あはせのはかま、たてまつれたまふ。



御うた、



夏なれど山は寒しと云なれば此かは衣ぞ風はふせがん



とてなむたてまつる。



とある、御かへし、



山風もふせぎとめつるかは衣の嬉しき度に袖ぞ濡ぬる



大納言どののきたのかた*のたてまつれ給、いともきよげなるつむぎをあを色にそめて、山ぶきいろのうちぎひとかさね・あをにびのあやのさしぬき・あはせのはかまひとかさね、たてまつれたまふ。


* 源高明室
そへられたる歌、



君が爲たちぬひたれば露ぞそふ都の人の苔のきぬには



かへし、



そはりける露も絶せぬ苔の衣いとど涙にぬれまさる哉



式部卿重明のきたの方登子ひとりおはすれば、ことなることおはせねど、人のもののたまふに、思しりてもあらねど、ふすまたてまつり給、



露のごと宵あか月に置なれば夜の寒さにふすま重ねん



御かへし、



よるとても打ふすまなき山伏は衣定めず今よりぞしく



かくて、*この中宮におはしますをみな人御ぞたてまつれ給。


* 少将が
「かならずわれもたてまつらむ。」とのたまひければ、



きさいの宮、「われとぐしてたてまつらむ。」とて、



あをにびのうちぎひとかさね・おなじいろのはかまひとかさねなんたてまつれたまひける。



君が影みえもやすると衣河波たちゐるに袖ぞぬれぬる



かへし、



我爲になみのぬひける衣河きてだになれむ年を渡りて



あい宮、「われなにわざをせん。」とて、きぬの御かたびらひとかさね・ぬののけうらなると、「御ゆどのしるからんに*。」とて、


* 目に立つだろうから
君が爲なく〳〵ぬへば世中になみだもかゝる衣たち鳧



御*を、


* 「衣」または「文」脱か
いで、あはれや。



これ*よりこそやますげのやうなりとも、御ぞはたてまつれまほしけれ。


*藤原高光
「ゆかたびら、たゞのと、いかにせさせ給へらむ。」と。



「あはれ〳〵。」とみたまふるに、



袂より
ぬれ劒袖も
まだひぬに
みにもしみぬる
から衣哉
たもとより
ぬれけんそでも
まだひぬに
みにもしみぬる
からころもかな

劒*ママ
わがきたの方には、「あふことのかたみにとこそみたてまつれ。」となむきこえたまへりける。



「いみじうあはれ。」となん、ことよりもあいみやのたてまつれたまへるを、とりわきてなき給ひける。



すべて〳〵、いひつくすべくもなく、いみじう憐になん。