ぜんじのきみ、「かう〳〵なむ、いとにはかにあさましく。」と京の殿ばらにきこえたまひければ、いみじうあさましがりのゝしりければ、うちにてきこしめしおどろきてけり。
女房もなきまどひて、*物もおぼえ給はず、あさましきに、いさゝかなる物もまゐらでなき給ける。
宰相中將君謙徳公*をはじめたてまつりておどろきとぶらひきこえ給。
「*たまひたりける。」ときこゆる人ありければ、うちおき給て、見まゐらせ給てのたまふ、
哀なる
名にはおふとや
みつれ共
形は殊に
あればかひなし
あはれなる
なにはおふとや
みつれとも
かたちはことに
あればかひなし
「『かたちもことになり給へり。』ときけど、そのすぢにはあらねば、あはれにもあらず。」ときこえ給けるを*、そのきたの方みたまひて、
逢事の
形はことに
なれりとも
心だにゝは
哀れなりなん
あふことの
かたちはことに
なれりとも
こころだにには
あはれなりなん
もとむとも
かひやなからん
類なく
哀にありし
君が心に
もとむとも
かひやなからん
たぐいなく
あはれにありし
きみがこころに
との給ひつゝ、をりふしごとになき給を、うけ給はる*人ごとにあはれがる。