いまだ世遁れざりけるそのかみ、西住具して法輪にまゐりたりけるに、空仁法師經おぼゆとて庵室にこもりたりけるに、ものがたり申して歸りけるに、舟のわたりのところへ、空仁まで來て名殘惜しみけるに、筏のくだりけるをみて

空仁



はやくいかだは
ここに來にけり
はやくいかだは
ここにきにけり


薄らかなる柿の衣着て、かく申して立ちたりける。優に覺えけり



大井川
かみに井堰や
なかりつる
おほゐかは
かみにゐせきや
なかりつる