左には山のかたを洲浜につくり



右には荒れたる宿のかたを洲浜につくりてありける



郭公



一番



左勝



夏ふかき
山里なれど
郭公
聲はしげくも
きこえさりけり
なつふかき
やまざとなれど
ほととぎす
こゑはしげくも
きこえさりけり






あれにける
宿のこずゑは
たかけれど
山時鳥
まれに鳴なり
あれにける
やどのこずゑは
たかけれど
やまほととぎす
まれになくなり


二番







誰とかは
とはにかたらふ
郭公
まつ我きくに
いはでわたるは
たれとかは
とはにかたらふ
ほととぎす
まつわれきくに
いはでわたるは


右勝



おぼつかな
音羽の山の
時鳥
さすがにいはぬ
ことなたのめそ
おぼつかな
おとはのやまの
ほととぎす
さすがにいはぬ
ことなたのめそ


三番







なくたびと
おどろかるらむ
郭公
とふ一声に
ありときゝつゝ
なくたびと
おどろかるらむ
ほととぎす
とふひとこゑに
ありとききつつ


右勝



しらねとも
こたへやはする
時鳥
もとつひとゝふ
こゑをあはれど
しらねとも
こたへやはする
ほととぎす
もとつひととふ
こゑをあはれど


四番



左勝



住里は
しのぶの山の
ほとゝぎす
このした聲ぞ
しるべなりける
すむさとは
しのぶのやまの
ほととぎす
このしたこゑぞ
しるべなりける






月夜には
をぐらの山の
郭公
聲もかくれぬ
物にぞありける
つきよには
をぐらのやまの
ほととぎす
こゑもかくれぬ
ものにぞありける


五番



左勝



ほのかなる
聲をすてゝは
郭公
鳴つるかたを
まつぞもとむる
ほのかなる
こゑをすてては
ほととぎす
なきつるかたを
まつぞもとむる






さよ更けて
ふるの都の
ほとゝぎす
かへる雲ゐの
聲をきかせよ
さよふけて
ふるのみやこの
ほととぎす
かへるくもゐの
こゑをきかせよ


六番



左勝



更る夜に
おきてまたねば
時鳥
はつかなるねも
いかできかまし
ふけるよに
おきてまたねば
ほととぎす
はつかなるねも
いかできかまし






ほとゝぎす
雲ゐの聲を
きく人は
心もさらに
なりぞしにける
ほととぎす
くもゐのこゑを
きくひとは
こころもさらに
なりぞしにける


七番



左勝



まだらつる
ほとは久しき
ほとゝぎす
あかで分れむ
のちの恋しさ
まだらつる
ほとはひさしき
ほととぎす
あかでわかれむ
のちのこひしさ






小夜ふけて
誰かつけつる
郭公
まつにたかはぬ
聲のきこゆる
さよふけて
たれかつけつる
ほととぎす
まつにたかはぬ
こゑのきこゆる


八番







ほかにまた
まつ人あればや
ほとゝぎす
心のとかに
聲のきこえぬ
ほかにまた
まつひとあればや
ほととぎす
こころのとかに
こゑのきこえぬ






ふた聲と
きかでやゝまむ
時鳥
あかつきちかく
なりもしぬらむ
ふたこゑと
きかでややまむ
ほととぎす
あかつきちかく
なりもしぬらむ


九番



左勝



あけぬまに
はこねの山の
郭公
ふた聲とだに
鳴わたるらむ
あけぬまに
はこねのやまの
ほととぎす
ふたこゑとだに
なきわたるらむ


十番



左勝



我宿に
聲なをしみそ
ほとゝぎす
かよふ千里の
みちはてしぞは
わがやどに
こゑなをしみそ
ほととぎす
かよふちさとの
みちはてしぞは






ほとゝぎす
今夜とまりて
かたをかの
あしたの原に
かへりやはせぬ
ほととぎす
こよひとまりて
かたをかの
あしたのはらに
かへりやはせぬ


十一番 あはぬ恋







世中の
つねのことゝや
おもふらむ
なみだもごとに
わきていづるは
よのなかの
つねのこととや
おもふらむ
なみだもごとに
わきていづるは






あふことぞ
おしからずして
いのちをば
あはぬに我よ
かつすな???
あふことぞ
おしからずして
いのちをば
あはぬにわれよ
かつすな???


十二番



左勝



あひかたみ
めより涙は
なかるれど
こひをはけたぬ
物にさりける
あひかたみ
めよりなみだは
なかるれど
こひをはけたぬ
ものにさりける






夢にだに
見ぬ人こひに
もゆる身の
けぶりは空に
みちやしぬらむ
ゆめにだに
みぬひとこひに
もゆるみの
けぶりはそらに
みちやしぬらむ