一番







草かくれ
秋過ぎぬべき
女郎花
匂ひゆゑにや
やまづ見えぬらむ
くさかくれ
あきすぎぬべき
をみなへし
にほひゆゑにや
やまづみえぬらむ






あらがねの
土の下にて
秋経しは
今日の占手を
まつ女郎花
あらがねの
つちのしたにて
あきへしは
けふのうらてを
まつをみなへし


二番







秋の野を
みなへしるとも
笹わけに
濡れにし袖や
花と見ゆらむ
あきののを
みなへしるとも
ささわけに
ぬれにしそでや
はなとみゆらむ


女郎花
秋の野風に
うち靡き
心ひとつを
誰れに寄すらむ
をみなへし
あきののかぜに
うちなびき
こころひとつを
たれによすらむ


三番







秋ごとに
咲きは来れとも
女郎花
今朝をまつとの
なにこそありけれ
あきごとに
さきはくれとも
をみなへし
けさをまつとの
なにこそありけれ






さやかにも
今朝は見えずや
女郎花
霧の真垣に
立ち隠れつつ
さやかにも
けさはみえずや
をみなへし
きりのまがきに
たちかくれつつ


四番







白露の
置ける朝の
女郎花
花にも葉にも
玉ぞかかれる
しらつゆの
おけるあしたの
をみなへし
はなにもはにも
たまぞかかれる






女郎花
たてるの里を
うち過ぎて
うらみむ露に
濡れやわたらむ
をみなへし
たてるのさとを
うちすぎて
うらみむつゆに
ぬれやわたらむ


五番







朝霧と
野辺にむれたる
女郎花
秋を過さす
いひもとめなむ
あさぎりと
のべにむれたる
をみなへし
あきをすぐさす
いひもとめなむ






秋風の
吹きそめしより
女郎花
色深くのみ
見ゆる野辺かな
あきかぜの
ふきそめしより
をみなへし
いろふかくのみ
みゆるのべかな


六番







かく惜しむ
秋にし遭はば
女郎花
移ろふことは
わすれやはせぬ
かくをしむ
あきにしあはば
をみなへし
うつろふことは
わすれやはせぬ






長き夜に
誰れ頼めけむ
女郎花
ひとまつむしの
枝ごとに鳴く
ながきよに
たれたのめけむ
をみなへし
ひとまつむしの
えだごとになく


七番



左 壬生忠岑



人の見る
ことやくるしき
女郎花
秋霧にのみ
立ち隠るらむ
ひとのみる
ことやくるしき
をみなへし
あききりにのみ
たちかくるらむ






取りて見は
はかなからむや
女郎花
袖につつめる
白露の玉
とりてみは
はかなからむや
をみなへし
そでにつつめる
しらつゆのたま


八番



左 凡河内躬恒



女郎花
吹き過きて来る
秋風は
目には見えねと
香こぞ知るけれ
をみなへし
ふきすきてくる
あきかぜは
めにはみえねと
かこぞしるけれ






ひさかたの
月人壮士
女郎花
あまたある野辺を
すきがてにする
ひさかたの
つきひとをとこ
をみなへし
あまたあるのべを
すきがてにする


九番



秋の野の
露に置かるる
女郎花
払ふひとなみ
濡れつつやふる
あきののの
つゆにおかるる
をみなへし
はらふひとなみ
ぬれつつやふる






仇なりと
名にぞ立ちぬる
女郎花
など秋の野に
思ひ染めにけむ
あだなりと
なにぞたちぬる
をみなへし
などあきののに
おもひそめにけむ


十番







女郎花
移ろふ秋の
程をなみ
ねさへ移して
惜しむ今日かな
をみなへし
うつろふあきの
ほどをなみ
ねさへうつして
をしむけふかな






移らすは
冬ともわかし
女郎花
常盤の枝に
咲きかへるらむ
うつらすは
ふゆともわかし
をみなへし
ときはのえだに
さきかへるらむ


十一番



女郎花
この秋までぞ
勝るべき
勁をも貫きて
玉に纏はせ
をみなへし
このあきまでぞ
まさるべき
つよをもぬきて
たまにまとはせ


右 后宮


中宮温子
君により
野辺をはなれし
女郎花
おなじ心に
秋をとどめよ
きみにより
のべをはなれし
をみなへし
おなじこころに
あきをとどめよ

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