いまだ世遁れざりけるそのかみ、西住具して法輪にまゐりたりけるに、空仁法師經おぼゆとて庵室にこもりたりけるに、ものがたり申して歸りけるに、舟のわたりのところへ、空仁まで來て名殘惜しみけるに、筏のくだりけるをみて
空仁
かへりごと申さむと思ひけめども、井堰のせきにかかりて下りにければ、本意なく覺え侍りけむ京より手箱にとき料を入れて、中に文をこめて庵室にさし置かせたりける。返り事を連歌にして遣したりける
空仁
申しつづくべくもなき事なれども、空仁が優なりしことを思ひ出でてとぞ。この頃は昔のこころ忘れたるらめども、歌はかはらずとぞ承る。あやまりて昔には思ひあがりてもや
題なき歌